しばらくの間、なんだか変わった空気が流れていた。
これは、僕とメロンの間のことではなく、母ちゃんとトモとの関係だ。
めっきり寒くなって、夜になると、トモの弟、小4のハルはいつしか僕たちのかごの外にあったかーい電球みたいなのを取り付けてくれるようになっていた冬の間。
本当は昼間もつけてくれたらうれしいんだけど、ケチな母ちゃんは、もったいないから夜だけでいいのよ、ってハルに言っている。
たしか電気代の目安は一ヶ月20円程度だって、母ちゃんが父ちゃんに自慢気に言っていたような気がするんだけどさ、まあ聞かなかったことにしておこう。
母ちゃんがうるさいから。
ハルが眠ってしばらくすると、母ちゃんがやってくる。
ここからは、一日のうちで一番イヤーな憂鬱な時間が始まる。
母ちゃんは、「ほーら、ねんねの時間だよー」ってやさしく言いながら、あったかカバーをかけてくれて、あったかさパワーアップなんだけど・・・うざいんだ。
何がうざいって、それから電気を消して静かにしてくれるわけでもなくて、ずっとテレビがついているし、いろいろな声や音が聞こえるんだ。
時には「そっかー、やっとわかったよー。オーー、オレって天才!」なんて声が聞こえる。
そして時には「エンタの神様」が始まっちゃってるー」と、バタバタ走ってくる足音。
それならいいけど、真夜中に、「ジュケンベンキョーもしないで、こんな時間までテレビを見てるかーー」って言う、空恐ろしい母ちゃんの声も聞こえてくる。
・・・こうなると、バトル勃発だ。
こんな時間にわめいている母ちゃんの声の方が、僕たちには甚だ迷惑なのを、母ちゃんは気付いているのだろうか?
もちろん相手は高校受験生のトモだ。
こうこうじゅけんって、なんだか知らないけど、母ちゃんにとっては、それはそれは大事なものらしい。
でも、いつも客観的に人間ウォッチングしている僕から見ていると、ハルはそれほどに思っていない。
っていうか、どうでもいいって感じにすら見えたんだよ。
トモの主張では、ジュクってとこでしっかりやっているから家ではやらないんだと。
そして、それが気に食わない母ちゃんがつべこべ文句を言っているわけだ。
まったく外がどうなっているか見えやしないし、うるさいし、どっちもどっちだと思うし、はあーーー。
人間の世界ってのは大変なんだねー。
そして、僕はチョッパー。
ごまみたいなタネばかりのえさにわずかに混じったおいしい長細いタネばかり選んで食べちゃっている美しいメロンさんを横目で眺めてハアーーーとため息をつく。
そして、お日様が出ている時間が長くなるにつれ、母ちゃんとトモとのバトルにトゲが減ってきていることにも気付いている、ちょっとナイーブなハゴロモセキセイインコ。
2009年04月12日
環境好転の裏の静寂B静寂じゃない憂鬱な時間
2009年01月09日
環境好転の裏の静寂A僕の生きる道
ぼくはいつの間にか、今度はメロンに牛耳られるようになった。
美人で優しかったあのメロンが、美人には変わりないのだが、ぼくをおしのけてご飯を食べ、
僕をおしのけてお水を飲むようになった。
時にはぼくをそのかわいい口でつっつき、時にはありえない声を出して僕を威嚇する。
そのたびに止まり木のはしっこまで追いやられ情けない顔をしている僕に、中3のトモは、
「チョッパー、お前女子に弱いなー。女子はこえーもんなー」と語りかけるんだ。
どうやらトモも女子に苦労しているらしいんだな。
でも、どんなことがあっても僕はやっぱり下手にたてついたりはしない。
争いごとがきらいな僕は、いつもハスに構えて冷静にみんなの動向を見守るんだ。
そんな僕を母ちゃんは見透かしていて、「またチョッパーったらー、何見てんのよー」って、
恐ろしく前の、美川憲一さんのコマーシャルみたいなことを言ってる。
なんで、僕がそんな事を知っているかって?
それは、僕は実は128歳だからなんだよ。
・・・うそうそ、これはよく母ちゃんがハルに言っている事。
お母さん何歳?って聞かれると、必ず128歳って答えているへんな母ちゃんだ。
ほんとは母ちゃんが言っていた事の受け売りだよ。
ところで、最近のトモは何となく優しくなってきた。
口は相変わらず悪いのだが、どこかが違うんだ。
何があったか僕にはわからない。
ただ、怒ってばかりいたトモと、やっぱり怒ってばかりいた母ちゃんが、なんとなく仲良しになってきて、
そうしたらこのせまい箱のような部屋が明るくなった。
いつしか、もう誰もぴーすけ君のことを口にしなくなったんだけど、ハルが一度間違えて
僕に言った事がある。
「ぴーすけ」って。
僕たちセキセイインコは、3ヶ月も同じ所にいればどこからでも帰ってこれるハトとは違う。
だから、一度、この箱のような部屋から飛びたってしまえば、もう戻れる事もないのだろうと思う。
人間の世界でも鳥の世界でも、誰かが穏やかに引いていれば万事がうまくいくようだ。
ぼくにはひとりで青空に飛びたつ勇気はない。
だったら、ぼくはぼくでこのまま、このおかしな人間模様とインコ模様を客観的に見て研究するのを
楽しみとしてこの箱の中で生きていこう。
2008年10月11日
環境好転の裏の静寂@退屈な平穏
オレ様、オレ様とえらそうにしゃべるぴーすけ君が自由の世界へ飛んで行ってしまってからどれくらいたったのだろうか。
2日か3日か、それとも3ヶ月も半年もたったのか、ぼくにはよくわからない。
それに、ぴーすけ君が戻ってくるのかもわからない。
ぴーすけ君がいなくなってから、母ちゃんはめそめそしていた。
ほうぼう探したみたいだけど、どうにもみつからないらしい。
そして、ぴーすけは雨にうたれて寒くないかな、とか、ご飯は食べられているのかな、とか、それから・・・いや、これ以上は触れるのはやめておくよ。
中学生の兄ちゃんは、いつまでたっても落ち込んでいる母ちゃんに「いつまでもめそめそすんなよ。うぜーんだよ!」ってにくたらしい言い方をしていた。
母ちゃんは知らないだろうけど、兄ちゃんがぴーすけ君を心配しているのは僕たちにはよくわかっていた。
空を見上げる事なんてなく、淀んだ気持ちで生活をしていた兄ちゃんが、僕たちがいる四角い部屋に来るたびに、普段は嫌がってかけないめがねをめがねケースから取り出して、窓から遠くの空を長い時間みつめるんだ。
だけど、兄ちゃんや母ちゃんの悲しみをよそに、僕たちは僕たちの生活を脅かすぴーすけ君がいなくなった生活にとても満足していた。
かごを分けてからというもの、えさの独り占めや暴力は無くなったけど、始終うらめしそうにかごに張り付いて、僕たちを威嚇していたぴーすけ君。
僕の同居鳥で美人のメロンは、それはそれは相変わらずステキな優しい女性だが、もうぴーすけ君のことなんて忘却の彼方って感じだ。
メロンがこんなドライな一面をもつ鳥だったとは意外だった。
こんなもんなんだろうか?
僕は僕で、そんなドライな美人の姿を眺めながら、コーヒーでも飲みたくなるような至福の一時を味わいながらも、どこか空虚な気持ちのかけらが体のどこかすみっこに勝手に滞在していることに気づかずあたりまえにご飯をもらい、お水をもらい、カゴの掃除をしてもらっていた。
そうそう、僕はチョッパー。同じ名前のヒト(??)がマンガのワンピースに出てくるので、ちょっと嫌な気分の、何故かつむじがあるハゴロモセキセイインコ。
2008年10月03日
自由の定義Dわがままからの飛翔
オレ様はまた夢を見ていた。
トモとハルが何か言い合っている。
またおきまりのチャンネル争いか??
それとも、おかずのとりあいか?
いや、夢の中のトモは悲しそうな顔をしている。
いつもの意地悪をいうトモではなかった。
「ぴーすけをちゃんと探したのかよ!お前が失敗したんじゃないのか?ぴーすけはまだこどもなんだぞ」
「ちゃんと探したよ。でも近くにはいないし、よその家にも入れないし・・・。
それにオレじゃないよ。逃がしちゃったのは母ちゃんだよ!」
「またお前は人のせいにするのか?」
「だからおれじゃないって・・・」
どうやら、トモとハルがオレ様のことで言い争いになっているみたいだ。
夢を見ながらオレ様は泣いていた。
鳥は枕をして眠りはしないが、涙で枕をぬらすようだった。
目がさめて涙をぬぐい、オレ様は高い空に向かってはばたいた。
気持ちを入れ替えるために、何度も何度も空を旋回した。
今度は無計画に飛ばなかった。
すずめの家を見失わないように何度も確認しながら、時にはオレ様の羽毛の1枚1枚のストレスをほぐすように、
時には昨日までの自分のわがままをかき捨てるように高く・低く・早く・遅くはばたいた。
えさと水を探すことも視野に入れ、四方八方の敵に細心の注意をはらい飛ぶことも覚えた。
この二日でオレ様は一生分くらいの経験値を得た。
母ちゃんの失敗、別れ、ひとりぼっちの夜の寂しさ、カゴの外の広さ、敵の脅威、えさも水も自力で探すこと、自分で考え行動すること、そして恩。
オレ様が今、この瞬間からやるべきことは二つ!
まずは、赤茶色の長いひもみたいな奴・・・これをみかんすずめはみみずと呼んでいた・・・
これをまずみつけて持ち帰り、みかんすずめにお礼をしなければならない。
そして、これを食べてみせたいんだ。
それから、だいじなことをもうひとつ。
オレ様は絶対にメロンとチョッパーとトモとハルと母ちゃんと暮らしたあの家をみつけだす!
2008年09月26日
自由の定義C別れの確信
お腹はぺこぺこだ。今はここから飛び立つ元気などまったくなかった。
みかんすずめたちも、またどこかに飛び立ったまま戻らなかった。
オレ様たちのような鳥の仲間は、人間の胃袋に匹敵する機能をもつ消化器官をもっていない。
だから口から入った食べ物は一度溜められることなくどんどんうんち化に向けて進んでいく。
一説によると食べた後17分でうんちが作成されるらしい。
だから、オレ様のお腹と背中はくっつく寸前というわけだった。
オレ様の目の前に置かれた、みかんすずめが言う赤茶色の長い「ごちそう」はだんだんと
その水気を失ってきていた。
オレ様も腹ペコでだんだんとその生気を失ってきていた。
どうしてもその「ごちそう」にくちばしをふれようとする気になれず、ついに限界を感じたその時、
しばらくどこかに行っていたみかんすずめが戻ってきた!
何も言わずオレ様の顔を見つめてからおもむろに口を開けて差し出した。
タネだ!あのタネが口の中いっぱいに詰まっている!
母ちゃんがごちそうフードに混ぜてオレ様のえさに入れていた、あのお徳用格安のタネだ!
もう夢中で食べた。みかんすずめの小さな口が裂けるのではないかと思うほど食べた。
続いてやってきたみかんすずめの妻は野菜の端切れを何度もくわえてきてくれた。
みかんすずめたちはオレ様が人間と一緒に住んでいたこと、何か事件がおきて、
不本意ながら一人旅をすることになったことに気づいていたようだ。
「きみはこういうものなら食べられるんだろ?やっと探してきたんだよ。
だけど、ぼくたちのようにこの広い世界で住むには、自分でえさを探して、自分で水を探して、
自分で自分の身を守らなければならないんだ。
こんなえさは食べられない、なんてわがままは通用しない。
食べられるものは何でも、食べられる時に食べる!これが生きていくための最終手段なんだ。
これからのきみは受け身では生きていけないんだよ。」
静かにそう諭すみかんすずめの顔のむこうの空を見あげながら、オレ様はもうトモやハルのところには帰れないことを心のどこかで確信していた。続きを読む



